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東京高等裁判所 昭和49年(う)188号 判決 1974年5月21日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

<前略>

被告人園部喜代司の弁護人稲村建一の控訴趣意について、

控訴趣意第一点事実誤認若しくは法令違反の主張について、

所論は、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(以下狩猟法という)一六条後段の規定は、人畜に対し具体的危険のある銃猟行為を禁止した趣旨と解すべく、被告人園部のした本件銃猟行為は右の如き具体的危険のない行為であるばかりか、原判示榎本勝吾は狩猟の際におけるいわゆる勢子の関係にある者で、同条後段にいう人畜に含まれないものと解すべく、従つて同被告人が榎本に向つて原判示の距離をおいて散弾銃を発射したとしても、同条後段違反の罪に当らないものというべく、しかも、同被告人は仰角約八〇度の角度で発砲したものであるから、榎本が同被告人の前方約八八メートルの地点にいたとしても、榎本に対しては何ら具体的危険性は及ばないものであり、同被告人の本件行為は罪とならないものというべく、仮に同被告人の本件散弾銃発射行為が危険性のある行為であるとしても、同被告人は本件の具体的状況の下において全く危険はないものと考えて本件行為に及んだものであるから、同被告人には故意がない、というのである。

然し、狩猟法一六条は、「日出前若ハ日没後、市街其ノ他人家稠密ノ場所若ハ衆人群集ノ場所」における銃猟行為(同条前段)又は「銃丸ノ達スヘキ虞アル人畜、建物、汽車、電車若ハ艦船ニ向テ」する銃猟行為(同条後段)を禁止したものであり、同条後段の禁止行為はその前段の禁止行為と同一趣旨に出たものであり、その前段の規定が、一定の時刻、場所において人畜等に危険の及ぶ虞れのある銃猟行為を禁止している趣旨に鑑みれば、それは具体的危険の有無を問わず、同条前段所定の禁止行為が抽象的、一般的に人畜等に危険を及ぼす虞れがあるものとして一切これを禁止しているものというべく、従つて、これと趣旨を同じくする同条後段の規定も銃丸の達すべき虞れのある人畜、建物、汽車、電車若しくは艦船に向つてする銃猟行為一切を、その行為の当該具体的状況のもとにおける具体的危険の有無を問わず、禁止したものと解するのが相当である。さらに、これを詳言すれば、同条前段で禁止されている時刻、場所における銃猟行為は、それ自体において人畜等に危険の及ぶ虞れのある行為としていわゆる抽象的危険犯と解すべきことは明らかであるから、同条後段をこれと別異に解して、特に具体的危険のある場合に限りそこにいう銃猟行為を禁止したものと解することは、特に条文においてその趣旨の示されない以上、とうてい正当な解釈とは認められないのである。そして、銃猟行為自体もともと人畜等に対し危険を伴う行為であるから、銃猟行為の許される期間、場所における銃猟行為であつても、狩猟法は、特に、一六条に掲げる時刻、場所等における銃猟行為は、その行為自体特に人畜等に危険の及ぶ虞れの高い行為として、これを禁止しているのであり、同条後段の規定をこのように抽象的危険犯と解したからといつて、これを官憲の恣意的判断を許す拡張解釈ということはできず、右一六条が人畜等に危険の及ぶ虞れの高い行為を禁止したことは、公共の福祉を保持するためのもとより必要な措置というべく、違憲のそしりを受けるものとは考えられない。次に、所論は、原判示榎本勝吾は狩猟の際におけるいわゆる勢子の役目を勤めたもので、勢子その他の狩猟関係者は右一六条にいう人畜に当らないというが、榎本が所論の如く勢子の役目を勤めたとしても、同人に銃丸の達すべき虞れのある方向に向つて散弾銃を発射して銃猟行為をする以上、やはりそれは右一六条後段の禁止行為に当るものというべく、勢子その他の狩猟関係者を同条後段の人から特に除外すべき理由は毫も見出せないのであるから、この点の所論は独自の見解というべきである。また、所論は、被告人園部が仰角約八〇度の角度で発砲したことをもつて、榎本が同被告人の前方約八八メートルの場所にいたとしても、榎本に対し何ら銃丸による危険を及ぼす虞れはなかつた、というが、同被告人が、その使用した散弾銃の銃丸の最大射程距離の範囲内である約八八メートル前方に右榎本がいたのに、その方向に向つて散弾銃を発射したことが、証拠上認められる本件においては、その発射角度の如何、すなわち具体的危険の有無を論ぜず、一六条後段の禁止行為に当るものと解すべきことは、既に述べたところから明らかなところであり、所論は、独自の見解に依拠して具体的危険の有無を問題とするもので、採用の誤りでない。

さらに、所論は、同被告人において本件銃猟行為について危険性の認識がなく、故意を欠く、というが、狩猟法一六条後段違反の罪の成立について具体的危険の存在することの認識を必要としないことは、その罪が前記の如く抽象的危険犯と解する以上当然であるから、この点の論旨も理由がない。以上の次第でこの点の論旨はすべて理由がない。<中略>

よつて、本件各控訴は、いずれもその理由がないので、刑訴法三九六条に則り本件各控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用は、同法一八一条一項但書により、いずれも被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(荒川正三郎 谷口正孝 時国康夫)

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